夫婦の法律教室


結婚を如何に考えようともそれは各人の自由ですが日本の法律はこれが法律行為である事を明らかにしており契約であるとする見解をとっているといえます。ここでは法で定める夫婦関係の基礎知識としてその概要を記しております。是非閲して下さい。
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◆憲法と結婚の成立要件

●憲法第24条

(1)−婚姻は、両性の合意にのみ基づいて成立し夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により維持されなければならない。
(2)−配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚ならびに婚姻および家族に関するその他の事項に関しては、法律は個人の尊厳と両性の本質平等に立脚して制定されなければならない。

●実質的な要件

(1)−婚姻適齢に達していること
男は満18才、女は満16才に達していること。この年齢に達しない者は法律上結婚する事は許されません。
※法律上認められる年齢です。(4)を必読。

(2)−重婚でないこと
妻のある男や夫のある女が重ねて結婚することを重婚といいます。配偶者のある者が法律の認める結婚をすることができる場合は、離婚、配偶者の死亡により配偶関係が消滅した時に限ります。
※誤って婚姻届が受理され、戸籍上に重婚の事実があれば無効とされます。夫婦の一方が他の一方の印鑑を使用して離婚届をし独身者となり第三者との婚姻届を出し受理されると配偶関係が発生しますが家庭裁判所に審判の申し立てをすれば離婚は無効となります。この場合は重婚の罪が成立します。内縁関係の夫婦には適用されません。

(3)−一定の近親者でないこと
直系血族(親子、祖父母、養親と養子)・三親等内の傍系血族(兄弟姉妹、伯叔父母、甥姪)・直系姻族(配偶者の祖父母、父母、養親子関係も同様)の結婚は認められません。
※これらの関係者は親族関係がなくなっても結婚できません。ただし傍系姻族であっても亡父の兄弟、亡妻の姉妹との結婚は認められます。いとこは4親等です。

(4)−未成年の婚姻について父母の同意があること
結婚は法律行為ですから未成年が法律行為をする場合は法定代理人(父母)の同意が必要です。父母両方が反対すれば法律的には成立しませんが何れか一方が同意すれば有効です。父母の両方が死亡している時は同意は不要です。また一方が不明、死亡時には他の一方が同意すれば有効です。
※同意の表示がない婚姻届けは受理されませんが、いったん受理されると同意の表示がなくても有効です。

(5)−女子の再婚については一定の待婚期間のあること
結婚の解消、取り消しの日から6ケ月間の経過が必要です。夫と死別、離婚や取り消しの前から妊娠していた場合はその出産の日から禁止期間はなくなります。離婚した男との再婚や夫が三年以上生死不明を理由に離婚した時はこの適用はありません。
※再婚後に生まれた子供の父親の認定は家庭裁判所の審判によります。

●形式的な要件

(1)−戸籍の届け出
結婚は戸籍法により届け出をすることで効力が生じます。挙式だけでは法律はその夫婦を結婚している男女とは認めません。
※未成年の場合、一方の同意がないときはその理由を記載して下さい。
 

◆婚約と内縁の成立要件

●婚約と内縁
 婚約は将来夫婦になることを約束する男女間の合意のみにより成立する婚姻の予約です。内縁は社会的な事実として夫婦関係が存在し婚姻の届け出がなされていない準婚関係であり、法律上の保護を受ける上で不利益を余儀なくされますが法律的にも道徳的にも非難される理由はありません。

●婚約の成立
将来必ず夫婦になろうとする男女の合意のみで成立し、親同士の約束による許婚は婚約といえません。また結納自体は婚約成立の要件ではありません。
※当時者の一方又は両方が法律上または事実上結婚しており、その結婚解消後に結婚しようとする約束は無効です。

●婚約の効果
婚約が成立した当事者は将来夫婦共同生活がなされるように努力する責任を負います。また相手方が不当に婚約を破棄した場合は債務不履行による損害賠償請求ができます。

●内縁の成立
内縁関係を成立させようとする男女間の合意と、実質として夫婦共同生活の存在が必要です。男女間の合意がない性的結合は私通関係ですから内縁ではありません。また妾契約も同様です。

●内縁の効果
内縁は届け出がない事以外は法律上の夫婦と差異はありません。法律は準婚関係として民法による婚姻の規定を類推適用しており、特別の合意がないかぎり法律上の夫婦同様に取り扱われます。貞操義務、特有財産が認められ戸籍上の改氏は生じません。また内縁の子は嫡出子とはなりません。
※未成年の内縁は婚姻による成年化は生じませんが、法律上の結婚は未成年者でも成年に達したものとみなされます。

●内縁の解消
一方の死亡(他方は相続人になれません)と協議による内縁関係の絶止で解消できます。法律上の夫婦のように裁判による離婚は認められません。また一方的に夫婦共同生活を解消することができます。ただし損害賠償責任を免れることはできません。
 

◆結婚の無効と取消

●無効と取消
無効とは結婚が初めから効力を生じない場合を言い、取消とは結婚が形式的には成立していても実質的要件を備えていないため将来的に効力を失う場合をいいます。

●無効原因
(1)−結婚届をしない時
(2)−当事者に結婚する意志がない時
相手方を人違いした時、本人が知らないうちに結婚届が出された時、禁治産者の精神状態が平常に復してしないときの届け出、錯誤の届け出等の場合があります。

●取消原因
(1)−不適齢の結婚、重婚、近親婚等
(2)−詐欺、脅迫による結婚

●手続
無効・取消とも家事審判法に基づく調停、審判手続。人事訴訟手続法による戸籍訂正。無効取消は裁判所によって行われ当事者の合意ではその効力はありません。合意によって事実上の無効取消の場合、法律上は協議離婚となります。

●効果
無効の場合は当事者間には初めから夫婦としての法律関係は生じずその間に生まれた子は嫡出子となりません。取消の場合は将来に向かって効力を失い夫婦間に生まれた子は嫡出子となります。
 

◆結婚による夫婦間の法律関係

●結婚の効果(身分上の効果)

(1)−当事者は配偶者である身分を取得し貞操義務が生じ氏を同じくします。

@互いに配偶者としての身分を取得し、互いに相続関係が生じ配偶者死亡時には生存配偶者は第一順位相続人と共同相続人になります。共同相続人が無い場合は死亡配偶者の遺産全部を相続します。

A夫婦は同一の氏を称えることを原則とし、結婚に際し任意で何れか一方の氏にします。まったく新しい氏にはできません。又届け出をした氏は家裁の許可審判が無い限り変更できません。配偶者の死亡により生存配偶者は届け出をして結婚前の氏に戻れます。
※生存配偶者は死亡配偶者の三親等内の親族とは親族関係にありますからこの親族関係を無くするには婚姻関係解消の届け出が必要です。

(2)−同居、協力、扶助の義務が生じます。

@同居とは夫婦として終生の共同生活を目的とする性的結合関係ですから例え同一家屋に居住していても障壁等により互いに隔離されての別生活は同居とは言いません。また事情による夫婦別居の場合は同居でないとは言い切れません。夫婦の一方は他方に対して同居する事を求める事ができます。
※無期限である夫婦間の別居の合意は無効です。また一定期間の別居の合意も相手方の同居の請求を拒否する理由とはなりません。

A夫婦は分業的協力(それぞれの職分担当)により共同生活を維持しなければなりません。決して命令と服従の関係ではありません。

B夫婦は互いに相手方の生活を自分の生活として保障し未成熟の子があるときはその子を含めて必要な衣食住の資を供与しなければなりません。この義務は自分の生活に余裕がある場合にだけ相手方の窮乏を外部から支持する親族間の義務とは本質的に違います。夫婦は結婚から生ずる費用分担を定めています。
※夫婦の一方が扶助の義務を履行しないとき他の一方はその履行を求めることができます。違法に扶助義務を履行しないときは離婚原因とされます。

(3)−未成年は成年とみなされます。

@親権から解放され夫婦は独立して法律行為ができます。これは私法上の行為能力についてのみ生ずるものですから公法上(選挙権、飲酒等)での身分は変わりません。
※結婚による成年化は配偶者の死亡、離婚により結婚関係がなくなっても未成年に返ることはありません。

(4)−配偶者の親族との間に姻族関係が生じます。

@結婚による親族関係を姻族といいます。これを「三親等内の姻族」と言い夫婦何れか一方からみて相手方の親子、兄弟姉妹、祖父母、孫、曽祖父母、祖孫、伯叔父母、甥、姪にあたる者です。姻族関係の消滅は離婚、配偶者の死亡により婚姻関係解消の届け出が必要です。

(5)−父の認知した子は父母の結婚により準正を生じ嫡出子となります。

●結婚の効果(財産上の効果)

(1)−結婚の届け出前に契約を結び登記すれば夫婦財産契約として夫婦の承継人や第三者に対抗できます。

@夫婦となる男女が結婚前にその合意によって結婚後の夫婦の財産関係を契約により定めることを言い、結婚届をするまでにこの登記をしなければ効力は生じません。

A契約の内容は自由に定めることができます。
※夫婦共同生活の本質に反する定め(同居、協力、扶助を否定する合意)はできません。

Bこの契約は相続人や第三者に重大な利害関係がありまから結婚届後の変更はできません。
※契約中の条項に変更が留保されているときはこれに基づき変更ができます。登記することにより第三者に対抗できます。

C夫婦の一方が他方の財産を管理する場合、その管理の失当により財産を危うくした時は他方は自分で管理することを家裁に請求し登記することにより第三者に対抗できます。
※共有財産の分割登記もできます。

(2)−夫婦財産契約を結ばなかった時は民法規定に従います。これを法定財産制と言います。

@夫婦の一方が結婚前から所有する財産や結婚中に自分の名前で得た財産は特有財産とされます。
※夫婦のどちらに属するか明らかでない財産は夫婦の共有財産となります。

A結婚生活の為の費用は夫婦の資産、収入その他一切の事情を考慮して分担します。この費用は衣食住、出産、医療、交際費、未成年の子の養育教育費用等を含みます。

B日常の家事に関して夫婦の一方が第三者と法律行為をした場合は他の一方はこれにより生じた債務について連帯して責任を負います。

●夫婦間の契約取消権
夫婦間での契約は、何時でも夫婦の一方から理由なしに取り消すことができます。これは夫婦間の契約は当事者の愛情と道義により処理するのが妥当であるとの考え方です。
※しかし夫婦間の関係が破綻しそうな状態の場合は取消権の行使を認めない事があります。離婚の合意と密接な関係にある財産分与の契約は取り消すことができません。

●配偶者の失踪による再婚
配偶関係は配偶者の死亡や離婚によって消滅します。また相続人としての権利は離婚したときにのみ失われます。死亡・離婚以外に配偶者の失踪は配偶者関係を消滅させます。民法30条は「不在者の生死が7年間あきらかでないときは家庭裁判所は利害関係人の請求によって失踪の宣言をすることができる」と規定しています。所定の手続をして宣言された時から10日以内に役所に届出をすると不在者は戸籍から抹消され配偶者は自由に結婚できます。
※民法30条2項には生死の原因とされる危難に遭遇した者の生死が危難がなくなった後は3年間と規定しています。これらの危難とは戦地、沈没船に乗っていた時等です。
 

◆配偶関係の消滅(死亡・離婚)

●配偶者の死亡
結婚は配偶者の死亡によって実質的に消滅し夫婦の法律関係は変動します。すなわち同居、貞操、扶助、結婚生活の費用の分担等の義務や夫婦間の契約の取消権がなくなります。※結婚に際して定めた氏(復氏は任意、但し復氏届出後は結婚中の氏に戻れません)、姻族関係、親族扶養義務、祭祀等の関係は効力を失いません 。
 

●離婚(協議上の離婚

(1)−協議離婚の要件

@民法736条は「夫婦はその協議で離婚をすることができる」と規定しており夫婦の合意に基づく届出が必要です。これには相手の同意がなければ成立しません。この場合は裁判上の離婚となります。ここで言う夫婦の合意とは真意に基づくものでなければなりません。夫婦喧嘩の売り言葉・買い言葉の類は合意と見なされないようです。
※夫婦間の売り言葉・買い言葉でも夫婦が追認して離婚届を出せば離婚が成立します。注意して下さい。

A子のある夫婦の協議離婚については合意内容が問題になります。未成年の子は親権者、監護者が必要ですから夫婦間でこれを決めます。夫婦の共有財産、慰謝料も関与してきますから合意は困難な場合もあります。

B未成年者の離婚に父母の同意は不要です。これは未成年者は結婚によつて成年者とみなされるからです。

C禁治産者の離婚は思考能力が普通の人と変わりないことを証明する医師の診断書が必要です。

D将来離婚することを協議し一定の条件を定めた場合、条件が成就してもこの協議は無効ですから協議離婚は成立しません。

E離婚合意の取消は届出以前であればできます。合意した後思い直して取消た時は届出後でもその時は合意がなかったものとしてその離婚は成立しません。

F離婚する意志のない夫婦の届出は原則無効です。これはある目的のための方便の仮装離婚とされ公正証書原本不実記載の罪にとわれる事もあります。

(2)−本人の知らない離婚届

@夫または妻が相手方の同意があったと言う理由や悪意により勝手に相手方の記名押印をして離婚届を出す場合は夫婦の同意に基づかないものですからこれは無効です。

A悪意の第三者が当事者に知られないように離婚の届け出をした場合は家裁に申し立てをして戸籍の訂正をしてもらいます。

(3)−離婚の取消方法

@離婚の取消を請求できるのは当事者にかぎります。
※協議離婚は実質の有効無効を問わず届出の形式が整っていれば受理され効力が生じます。本人が知らない場合もありますから注意して下さい。

A他方を相手方として家裁の審判、地裁の判決を求めこれに基づき戸籍の訂正をします。当事者の一方が死亡しているときの請求は検察官を相手方とします。

B離婚の取消請求はその請求が出来るようになった時から三ヶ月(離婚を知ったときから、脅迫等の場合は自由に意思表示が出来るようになった時から)以内に意思表示しないとその権利は失われます。またこの期間中でも当事者が改めて離婚の合意をすれば成立します。
 

●離婚(裁判上の離婚
一定の離婚原因があるときは相手方が離婚を承知しなくとも裁判によって離婚を成立させることが出来ます。裁判上の離婚には調停、審判、判決があります。

(1)−離婚原因(配偶者に不貞な行為があった時)
実際にどの程度の不貞行為かが問題になりますが、夫婦は貞操を守る義務があり、夫又は妻が配偶者でない男・女と性的関係をもつ事は間違いなく不貞行為と認められます。
※不貞を原因として訴を起こしても一切の事情を考慮して継続が妥当と認めた場合は請求を却下することがあります。
※従来、有責配偶者の離婚請求は認められなかったがH8年法制審議会より改正案が提出され場合によっては不倫をした当事者の離婚請求も認めるようになってきています。

(2)−離婚原因(配偶者から悪意で遺棄された時)

@相手方を追い出して同居できないようにした。
A相手方を置き去りにして省みない。
B相手方が家を出なければならないような嫌がらせをして相手が出た後復帰を拒否した。
C相手方の同意を得ず一方的に居所を変更し同居出来ないようにした。

(3)−離婚原因(配偶者が生死不明の時)
配偶者の生死が三年以上明らかでない時はこれを原因として訴を起こすことができます。離婚の判決後、相手方が生きている事が分かってもこの効力は消えません。
※訴訟手続中に相手方の生存が判明したときはこの請求は認められません。

(4)−離婚原因(配偶者が強度の精神病の時)
配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みが無い場合はこれを原因として訴を起こすことができます。相手は精神病で法律上は無能力者ですから代理人を相手方とします。

(5)−離婚原因(結婚を継続し難い重大な理由がある時)(事件例の主なもの)

@夫婦の精神的な破綻−性格、教養、趣味、習慣、宗教、不貞による信頼喪失等
A肉体的な破綻−性的結合(SEX)の不能(第三者は介入できません)。暴力。
B経済的な破綻−一方の浪費癖や相手方の忠告を聞かずに経済的に破綻したとき。
Cその他−刑罰をうけたとき、配偶者の親族との不和等があります。

(6)−離婚訴訟
一定の離婚原因があれば当事者は裁判上の離婚を請求できます。この場合は家裁に対して調停の申込みをします。これは家事審判法に基づきます。解決にはどうしても判決が必要な場合は地裁です。相手方が生死不明の場合は地裁に提訴して判決をうけます。夫婦以外の者は提訴できません。
※調停離婚の申立は相手方の住所地の家裁です。訴状の提出は夫婦が夫の氏を称する時は夫の、妻の場合は妻の普通裁判籍のある住所地の地裁です。
 

◆離婚による財産分与

●財産分与とは何か
民法では離婚当事者は相手方に対して財産の分与を請求する事ができることを定めています。

@夫婦共同生活中の共通財産の精算
A離婚原因をつくった有責配偶者から相手方配偶者への損害賠償
B離婚後の生活費

【分与の性質】結婚前から夫・妻が所有していた財産は共有財産ではありませんから自分の物として所有権を主張できます。結婚後、夫婦の一方が取得した財産であっても配偶者の協力を無視できませんから配偶者の持分を否定できません。夫婦の財産は所有権名義人に専属するとは言い切れません。夫婦が離婚しない限り配偶者の財産の全部又は三分の一を相互に相続できる権利があり、遺留分権利も認められています。

●財産分与の請求
原則として夫婦間協議で決めますが話し合いがつかない時は申立により家裁が下記の諸点を考慮して具体的な内容や額を決定します。

@結婚後夫婦が協力して得た財産の額
A夫婦の現在の職業や収入
B離婚原因に関する夫婦の責任割合
C結婚年数

●財産分与の具体的な方法

@夫はその財産の1/2又は1/3を妻に分与することを基準とする。これに離婚原因等を考慮にいれます。夫婦の協力による財産の取得が無かったから分与義務はないとする主張は認められません。

A 財産の分与は現金、土地、建物等の不動産でも良くその種類を問いません。分与財産の支払いは協議によって任意決定できます。又調停や判決でもできます。

B 慰謝料や損害賠償金の形で財産を分与するときは離婚直後の一括支払いが普通ですがこの場合も分割払いや支払期限を任意で決められます。
※財産分与を裁判で決める場合は家事審判法により履行確保の手段がとられます。 また分与請求が認められた時は強制執行もできます。

●財産分与と養育費
 夫婦に未成年の子があるときは、その子の親権者を決めてからでないと協議離婚も裁判離婚も有効成立しません。子の養育は年齢によって養育期間に長短ができますから将来その額を変更できるようにして下さい。

●内縁夫婦の財産分与
 法的に夫婦でない内縁関係の解消の場合の財産分与については、離婚の場合の財産分与の規定が類推適用されると考えて差し支えありません。また相手方の不法行為や債務不履行を理由に損害賠償請求の訴を起こすこともできます。
 

◆離婚における慰謝料

●民法第710条
 「他人の身体、自由又は名誉を害したるばあいと財産権を害したるばあいとを問わず、前条の規定(不法行為による他人の権利の侵害)により損害賠償の責に任ずる者は財産以外の損害に対してもその賠償をなすことを要す。」

【解説】
上記規定にある「財産以外の損害」に対して支払われる金銭を慰謝料といいます。財産以外の苦痛とは精神的苦痛を意味し相手方の不法行為がなければ生まれなかったものですからそれがうまれた事についての責任は加害者側にあります。したがって加害者は精神的苦痛を与えた責任上その損害を賠償しなければなりません。慰謝料というのは精神的苦痛に対する損害賠償のことであり、損害賠償のほかに慰謝料があるのではありません。損害賠償の中で精神的苦痛に対して支払われる部分を特に慰謝料と言うのです。

被害者は不法に精神的苦痛を受けたとして何時でも慰謝料が取れると言うわけではありません。例えば相手が自分以外の人と結婚したために精神的な苦痛を受けたとしても相手の行為が不法でなければ請求出来ません。また相手に不法行為であっても苦痛を受けなかった時やその苦痛が客観的にみて重要性がなければ請求するのは困難です。

●離婚と慰謝料
 離婚が夫婦の一方の責任によっておこなわれた場合は他の一方は有責配偶者に対して夫婦の財産分与とは別に精神的苦痛に対する慰謝料が請求できます。この場合は有責配偶者が責任を認めれば慰謝料も含めて財産分与の額をきめるのが普通です。

●婚約破棄と慰謝料
婚約は法律的に「婚姻の予約」とされ当事者の意思表示・口約束で有効に成立する法律行為(契約)です。当事者の一方が他方の不法行為により破棄された場合、被害者は相手方に精神的苦痛を受けたとして慰謝料を請求できます。また婚約のために負担した費用も損害賠償請求できます。
※既婚の男・女が離婚する事を条件として結婚の約束をする事は法律行為としては無効です。約束を一方的に破棄された為に精神的苦痛を受けたとしても相手方に請求は出来ませんし相手方の配偶者から反対に慰謝料を請求されかねません。ご注意下さい。

●内縁解消と慰謝料
内縁は準婚関係ですから一般の離婚、婚約破棄の慰謝料請求に準じます。ただし配偶者のある男又は女が配偶者でない男または女と内縁関係を結びこれを解消したとしても慰謝料の請求権はありません。

●慰謝料の算定
精神的苦痛を数字で表すことは出来ません。年齢、職業、性別、社会的地位、財産状態(支払い能力)等により個人差がありますし苦痛の持続期間も一定していません。裁判で決められるような時は裁判官の自由裁量によります。